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執筆者の写真秋山妙子

マームとジプシー「BOAT」


個人的な観劇の感想です。

以前、第39回モスクワ国際映画祭にてダブル受賞を果たした「四月の永い夢」という映画に出資した方から、チケットを頂いて観て来た折、

そこに出ていた脇役の女の子がとても良かったので、彼女をフォローしてたら、この劇団に行き着き、観て来ました、マムとジプシーの「BOAT」。 前半は凄く良かった。

鳥かご、浜の作業員、丘の療養所、車椅子、灯台、余所者、煙突、そしてキーになるボート。

象徴的なシーン、象徴的な台詞が何度も何度も別の角度から繰り返されて、

たった一往復の会話のために細かく、素早く背景が展開されたりする。

それが記憶を飛んだり遡ったりする感覚を呼び起こして、

パラフィンのような時間が薄く重なっていくイメージ。

後半になるにつれ、人を複数人で押さえつけて執拗に刺したり、感情的な金切り声で台詞を叫ぶシーンが続き、

そこに原色のフラッシュのような照明、マイクの効果でどんどん大きくなるキャストの声と音楽が舞台を駄目にしていった。

感覚的で過剰な刺激。

簡単なほうに、なぜ。

ただもう、うるさくて、しつこくて、途中で退出しようと思ったけど、劇場の席は狭くてそれができなかった。

わかる、私たちは全員余所者で、時間はこれから作るもので、私たちは待つことしかできなくて、こうして叫び演じているあなたがたも、動物のように並んで観ている私たちの間には何もなくて、開けていて、言葉はなくて。

でもそれを全部言葉にしちゃったら駄目で、その台詞をいつまでも繰り返して叫ぶほど、今まで積んできたものが茶番になってしまう。

私は良いと思ったら力いっぱい拍手するし、もっと良かったら頭の上で手を叩くし、立ち上がるし、叫ぶこともある。

今回は3回か4回のカーテンコールの中、一拍も打たなかった。

客席の隅に座りなおしてアンケートを書いていたけど、気が付いたら劇場にはスタッフと、最後の観客2、3人しか残っていなかった。

そのうちの一人が

「ああ、もう疲れた、ほんとに疲れた」

と投げるように言いながらこっちに歩いてきた。

「本当にね」

と言おうと思ったけど、わざわざ疲労を共有する必要もないかな、と思って、やめた。

あの劇団は小さい箱のほうが向いているのではないかと思った、けど、しかし。

良い部分が多いだけに、1,2年後くらいにまた行ってみるかも知れません。

彼らは、やり切っているから。

やり切る人は、エネルギーが高くて、長所も短所もビビッドだから好きなのか嫌いなのか分類に困るけど、

でもそういう人がリアルに太くなっていくんです、そういう力を感じました。

今日も良い日に。


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